フリーランスのふりをする !? ~個人事業者への報酬に対する源泉所得税~

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フリーランスのふりをする !? ~個人事業者への報酬に対する源泉所得税~


支払うお金が給与か報酬かで消費税額が変わってくる!

ここでは、個人事業主への報酬に対する源泉所得税について考えてみます。
例えば、仕事を依頼した人と、「12ヶ月間、毎月105万円を支払う(年間1,260万円)」という契約を交わしたとしましょう。
この場合、契約社員のような扱いで、給与として支払う方法と、業務委託費扱いにし、報酬で払う方法とどちらがよいのでしょうか。

ポイント
1. 消費税の損得計算から、給与より報酬(個人外注)として支払う 方が得(あなたの会社が免税事業者の場合は損得なし)
2. 給与になるのか報酬(個人外注)になるのかは、契約書の内容と 4 つの判断基準がポイント
3. 報酬の場合、税務上限定列挙された所得の種類に該当とすると源 泉徴収が必要となる

1.どちらに該当するか判断するには?

仕事を依頼した相手に支払うお金が給与になるか、報酬になるかについては、以下のような判断基準で決める必要があります。
①形式基準

そもそも、相手と交わした契約書が、「雇用契約書」か業務の「請負契約書」かが判断基準となります。雇用契約書の場合は給与、業務契約書の場合は報酬になります。また、相手が「個人事業の開設届」を提出しているかどうかも大切なポイントです。業務請負契約を交わすためには、相手が個人事業主である必要があるので、「個人事業の開設届」を提出していなければなりません。
②実質基準

こちらは、業務を業務を遂行する際の実質的なことについて判断する方法です。

(イ)時間的拘束を設けているかどうか……業務を遂行する際に時間的な拘束があれば雇用(給与)、なければ請負(報酬)になります。

(ロ)作業の指示を発注元から個別に受けているか……発注元から具体的な作業指示を受けているのであれば、雇用(給与)と考えられ、発注元から指示を受けないで作業を行う場合は請負(報酬)となります。

(ハ)不可抗力で成果物を納品できなかった場合でも請求されるか?……トラブル等で業務が完了していなくても、雇用なら給与を受けることができます。一方、個人事業主として請負の場合は納品できなければ請求できません。

(ニ)他社の仕事を同時に受注することが可能か?……雇用契約を交わしていれば、通常同時に、他社の仕事を引き受けることはできませんので、判断基準となります。

ここで挙げた(イ)~(ニ)までの基準について一部分は雇用(給与)、残りは請負(報酬)に該当するというケースがとても多いのが現状です。そのため雇用としたいのか、請負としたいのかをあらかじめ明確にし、契約書を作成しておくことが重要です。
税務調査でこのポイントを指摘されることがよくありますので、判断に迷った場合は、専門家に相談してください。
というのも、給与にするか報酬にするかで納める税額が変わってくることがあるからです。

2.契約社員扱いにし、給与として支払う場合

仕事を依頼した人を契約社員のような扱いにし、給与として支払う場合、その給与からは源泉徴収する必要があります。
源泉徴収額は給与の源泉徴収の甲欄、乙欄で計算します。
税金の面からメリット・デメリットを考えてみましょう。
給与として支払う場合、メリットは特にありません。
 デメリットは消費税の課税対象外となることです。
人件費には税金がかかりませんので、それだけ消費税の税負担が大きくなってしまいます。

3.業務委託扱いにし、報酬として支払う場合

業務委託費(報酬)として支払う場合、まず源泉徴収が必要かどうかを判断する必要があります。
この判断基準は、支払う報酬が「報酬または料金等にかかる源泉徴収税額表」に当てはまるかどうかです。
次ページの表に当てはまらない場合、源泉徴収は不要となります。
例えばコンピュータのプログラムを書く業務を依頼した場合、表に当てはまらないので源泉徴収は必要ないということになります。
支払う報酬が次ページの表に当てはまる場合、決められた額を源泉徴収し、支払月の翌月10日までに納付しなければなりません(給与や弁護士・会計士・税理士等の専門家報酬のように年2回6カ月分をまとめて支払う納期特例制度は使えません)。
例えば、先ほどのコンピュータのプログラムは源泉徴収の必要がありませんが、ホームページのデザインを依頼した場合は、デザイン業務になりますので、源泉徴収する必要があるわけです。
ただし、源泉徴収の必要がない報酬について、源泉徴収したからといって、税務署からとがめられることはありません。
比較的大きな企業の場合、個人に対する支払いは一律で源泉徴収していることもあります。

万が一請求書に源泉徴収税額の記載がなければ、先方に連絡を入れた上で、自主的に10%減額した金額を支払っても税務上問題ありません。
例えば、請求書が次のような内容だった場合、報酬額の10%ではなく、合計額の10%を天引きして支払うようにして下さい。

<請求書>

報 酬 100,000円
消費税 5,000円
合計額 105,000円

税務上、報酬100,000円の10%の10,000円が源泉所得税である旨、明記されていない限り、合計額105,000円の10%の10,500円が源泉所得税額として天引き対象となってしまいます。もちろん先方に請求書を訂正してもらえば良いだけですが。
それでは、報酬として支払った場合の税務上のメリット、デメリットについて考えてみましょう。
まずメリットとして挙げられるのが、報酬の支払いは消費税の課税対象となることです。そのため、報酬として支払った金額を、売上高にかかる消費税から差し引くことができます。
デメリットとしては、手続きの煩雑さが考えられます。受け取る請求書には源泉徴収税額を明記してもらい、源泉徴収税額を天引きしたうえで納付しなければなりません。
納付もれがあると、不納付加算税や延滞税といったペナルティも課されます。

源泉徴収税額
4.報酬だと支払額が増える?

よく受ける質問に、「消費税免税事業者の個人事業主だから、消費税を支払わなくてもよいのでは?」というものです。
「給与ではなく、報酬扱いにしてしまうと、プラス5%の消費税分多く支払わなければならないのでは?」という質問もあります。
個人事業主が免税事業者であるか、課税事業者であるかを問わず、支払った報酬は消費税の対象となります(課税仕入れ)。
また、個人事業主が課税事業者の場合、別途消費税を要求されるか否かは、当事者間の契約ごとです。税込みで○○万円、と決めてしまえば問題は生じません。

 契約後に「うちは課税事業者だから消費税分を別途支払ってくれ」と言われたりしないように、契約時に税込みなのか、税別なのかを確認しておくことをおすすめします。
もちろん、課税事業者だからと言ってあなたの会社が別途消費税を支払わなければならないということは全くありません。

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