第4章 新米社長奮闘記 ~究極の三択!?捨てる仕事、拾う仕事~

小冊子 150の成功と失敗に学ぶ起業
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第4章 新米社長奮闘記 ~究極の三択!?捨てる仕事、拾う仕事~


 今日の朝食は、普段と変わらず食パンにトマトジュースとハムエッグ、そして美佳の説教だ。
幸いなことに二日酔いであまり耳に入ってこなかったが、どうやら、初日からこんなんだと先が思いやられるということらしい。
 朝食もほどほどにシャワーを浴びて、仕事用に用意したデスクに座りPCの電源をONにした。
これが会社なのか? 社会から隔離されたような不安を初めて感じた。
早く事業を軌道に乗せ、事務所を構えよう。
従業員も抱えて会社組織というものを早くカタチにしたい。

 翔一郎は強く思った。

 午後早速、株式会社ネットバリューの山崎を訪れて、業務委託基本契約書に捺印を行った。
契約書は2枚作成し、々1枚を保管し自分で印紙を貼っておくように言われた。
具体的にどうすればいいのか分からなかったので、山崎に尋ねると、印紙税を納める方法は独特で、自分で収入印紙を購入し、 契約書に貼付し、消印(割り印のこと)すれば良いとのことだった。
そして収入印紙の金額は、七号文書の継続的取引の基本となる契約書に該当するため、4000円と教えられた。

 ところでその業務は、取引先20社に2ヶ月に一度訪問して行う、内部統制システムの運用サポートと保守である。
1ヶ月に10社で1日に2社を回るようにスケジュールを組めば、毎月5日間の作業で30万円の報酬ということになる。
 自宅に戻った翔一郎は手始めに、以前芝園貿易に勤務していた時代に付き合いのあったシステム関連企業に電話を掛け、アポイントを取ることに全精力を傾けた。
 
10月5日、会計事務所との顧問契約をどうしたら良いか相談するために佐竹の勤務する税理士法人 シストを訪れた。
「どうや順調か?」
「何とか走り出したってところかな。
今日はブランニュースター社の税務会計顧問契約をどうしたら良いか相談しにきたんだけど……。」
「それやったら、とりあえず今必要なこと教えといたるから、自分でやってみぃ。
それで決算が近づいてきたらちゃんと契約しよう。せやなぁ、6月末頃でええやろ。」
 そういうと佐竹は翔一郎に新設法人向けの資料を渡した。

物語【150の成功と失敗に学ぶ起業】 資料1

(13)税務調査で問題にならないかと心配されるかもしれないが、銀行の利用規約に触れない限り、問題は生じない。
但しその口座は法人の預金口座として、元帳を作成しておく必要がある。

 銀行口座について、昔は多数の銀行と取引を行い、請求書に振込み先を数多く並べておくことが、会社の信頼性を高めるために一役買った時代もあったが、現在は事務の簡素化のため、会社設立時であれば、都市銀行1行に普通預金口座を開設すれば十分だという。
 税務に関してはまず次の4種類の届出書を提出するように言われた。

① 法人設立届出書
  (税務署、都道府県、市区町村  ※東京都23区の場合は、税務署と都税事務所の2ヶ所のみ)
② 青色申告承認申請書
③ 給与支払事務所等の開設届出書
④ 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書(常時10名未満の場合)

 さらに経理事務については自分でやるか美佳に手伝わせるか、若しくは会計事務所や記帳代行業者へ委託して、対応しなければならないとのことなので、美佳に少し勉強をさせて、手伝わせることとした。

 最後に役員報酬であるが、先行きが読めないためもう少し保留にしたいと伝えたが、最初に決めなけれならないそうだ。
定期同額給与規定というものがあるかららしい。
 翔一郎は自分に45万円、妻の美佳に5万円と設定することにした。
新規受注がなければ間違いなく大赤字になるが、青色申告であれば、赤字を翌年へ繰り越せることから、2人合わせて50万円にした。
何だか自分で出資したお金を給与としてもらうことがバカバカしく思えた。
もらうだけでなく、そのもらう金額には、所得税、住民税、社会保険料のすべてが所定の割合でかかってくるなんて……。
「まあ、頑張って経営してみい。
最初の3ヶ月は、成果が出えへんかっても慌てたらあかんで。」
「おう、さんきゅうー。」
 翔一郎は佐竹の事務所を後にした。

10月15日、少し手ごたえが出始めてきた。
アプローチしていた営業先のうち3件から案件の依頼があり、具体的な予算の提示を受けたのだった。

案件A 価格比較ポータルサイト構築
 納 期    年末まで(2・5ヶ月)
 予算金額   250万円
 外注コスト  100万円
 翔一郎の負荷 1ヶ月程度

案件B 求人サイトのカスタマイズとサーバ管理
 〈カスタマイズ作業〉
 納 期    年末まで(2・5ヶ月)
 予算金額   200万円
 外注コスト  160万円
 翔一郎の負荷10日程度 〈サーバ管理〉
 予算金額   月10万円
 外注コスト  0円(社内対応)

案件C 受発注システムの開発とメンテナンス
 〈システムの開発〉
 納 期    来年6月まで(8・5ヶ月)
 予算金額   1500万円
 外注コスト  1200万円
 翔一郎の負荷 4ヶ月程度
 〈メンテナンス〉
 予算金額   月25万円 
 外注コスト  15万円

 いずれの案件も11月1日着手で、最初の段階では翔一郎自身が担当せざるを得ない業務だったので、残念なことにどれか1つを選ばなければならなかった。
 Aは粗利が大きく、工期も短い。
1ヶ月程の作業負担であれば、正直楽勝だと思った。

物語【150の成功と失敗に学ぶ起業】 資料2

 Bもほとんど負荷がかからない点は案件Aと同じだ。
しかし細かい仕様に関するリクエストを取り入れていかなければならないため、作業者のレベルが高くなければ対応できず、外注コストが嵩かさんでしまうところが難点だった。
しかし運用開始後、毎月得られるサーバ管理収入は捨てがたいところだ。
 Cはクライアントの規模が結構大きく、予算額もダントツだった。
粗利も300万円一番高い。
但し翔一郎自身の負荷が4ヶ月程度と予測されることから、1ヶ月換算では75万円となり、案件Aに及ばないことが分かった。
またメンテナンス収入として月25万円を継続してもらえるが外注先にも協力を仰ぐ必要があるため、粗利ベースでは10万円となり、案件Bと同額となる。
また単独受注ではなく、コンサルティング会社が元請けで、その元請け企業から業務の一部発注を受けるという形式だった。

 堂々巡りで結論が出そうにないので、やむを得ず佐竹を寿司屋に誘った。
「今度はなんや? でも寿司屋やったらいつでも相談に乗るでぇ。」
 佐竹はいつになく上機嫌である。
「エンガワに中トロ、コハダとイカ頂戴!」
 ちゃんと相談に乗ってもらえるか心配になった。
佐竹は一通り聞いたところで、切り出した。
「で、翔一郎はどれをやりたいねん?」
「う~ん、正直答えが出ないから佐竹にヒントをもらいたいんだけど……。」
「そうやなぁ、俺はシステム開発のことは知らんから、専門的な個別要因は無視やで。」
 そう前置きをすると、黙々と注文した寿司を食べだした。
全て食べつくしたところで、こう言った。
「案件Bやな。」
 翔一郎は意外な一言に返す言葉がなかった。
「順番に言うと、まず案件Aは無しや。
掛け持ちで受注できるんやったら、案件Aはええと思うけど、どれか1つだけ選ぶとしたら、まず消さんとあかん。

 次に案件Cやけど、重たすぎるねん。
4ヶ月の時間を費やして、300万円の粗利を得るのと、案件Bの正味10日の作業で40万円得るんやったら、案件Bの方がええと思うで。
 もちろん案件Bにサーバ管理収入がなかったら、迷わず案件Cや。
それと継続収入という観点からは案件Bと案件Cは互角や。」
「正直案件Aか案件Cを選ぼうと思ってたんだけど。」
 翔一郎は恐る恐る佐竹に異議を唱えた。
「気持ちは分かる。翔一郎はこのブランニュースター社をどうしたいねん? 個人事業じゃなくて、会社組織として大きく成長させたいって言うてたやんな?」
「うん。」
「今回の3つの案件は全て別のシステム開発会社からの依頼やろ。会社を軌道に乗せていく上で、下請けでも何でも仕事を取っていかんとあかんというのは十分分かる。せやけど、どれか1つだけ選ばんとあかんねんやったら、今後のブランニュースター社の成長、発展に最も良い案件を選ぶべきや。」
「それはどういう案件?」
「下請けの仕事は受け身や。受け身の仕事に継続性はない。たまたま継続して案件の依頼がくるかもしれんけど、それはたまたまや。
 ポイントは、継続収入が上がるビジネスモデルに執着しろっちゅうことや。
1つは運用保守メンテナンス収入のように毎月継続収入が見込める仕事を優先するということや。
 次にブランニュースター社が直接クライアントから仕事をもらえる環境を作っていかんとあかん。
自社ホームページでもええし、ビジネスマッチングサイトを利用してもええし、とにかく継続的に新規案件が入ってくるようにするんや。それである程度安定的に仕事量が増えてきたら、社員を採っていくんや。でも気つけや。大口の案件で一時的に仕事のボリュームが増える場合は、極力最小限の社内の人員と外注業者で回すんや。」

安定収入 → 社員で対応
臨時収入 → 臨時雇用、業務委託で対応

 翔一郎は自分でも不思議なくらい納得できた。

「分かった。案件Bで行くよ。目の前の1500万円を蹴って200万円を取るのは正直勇気いるよなぁ。」

 翔一郎の正直な気持ちだった。

 佐竹は笑いながらウニとイクラとかっぱ巻きを美味しそうに食べていた。
翔一郎は頭がいっぱいで、 佐竹が追加注文したことすら気づいていなかったのだ。

物語【150の成功と失敗に学ぶ起業】 挿絵2

「今回もし1500万円の仕事を選んで、忙しく毎日を過ごし始めたら、翔一郎は会社が順調にいってると思って、自社独自の継続収入獲得のためのビジネスモデル作りを怠ることになってると思うで。ほな、ご馳走さん。」
 そう言い残して先に帰っていった。

〈主な登場人物〉
  株式会社ブランニュースター
    代表取締役 真 田 翔一郎(主人公)
    取 締 役 真 田 美 佳(妻)
  株式会社ネットバリュー  
    代表取締役 山 崎 隆 一(元上司)
  税理士法人アシスト  
    税 理 士 佐 竹 孔 明(大学の友人)

物語【150の成功と失敗に学ぶ起業】

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